文・写真=元 野球日本代表 清水直行
ニュージーランドから成田空港に降り立ち、まっすぐに向かった先は、銀座の高級ファッションブランドの店舗だった。
アテネ五輪の日本代表に選ばれたときから衣装提供で協力を受けている。日本滞在中、今回は侍ジャパンに関係した仕事の依頼があり、スーツなどの衣装合わせのためだった。
東京ドームで行われたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の1次リーグと2次リーグで、侍ジャパンの公式サイト内に開設されているFacebookでライブに出演。1次リーグの3月8日の豪州戦から、10日の中国戦、さらに2次リーグに入った12日のオランダ戦、14日のキューバ戦、15日のイスラエル戦で現場を訪れた。日本代表の試合前、グランド内の打撃ケージの裏あたりから、ロッテ時代にバッテリーを組んでいた里崎智也氏や、元阪神で侍ジャパンアンバサダーを務める赤星憲広氏らと練習の様子などを伝えた。
球場内では、練習中から多くのファンがフェンスにしがみついて、フリー打撃などを見ていた。私が出場した第1回大会の日本ラウンドでは、まだまだ大会自体の認知度も低く、観客席にも空席が目立った。メディアの数も、今回と比べたら半分以下だったように記憶している。
それが第4回、年月にしてわずか11年の間にここまでの盛り上がりになった。当時は日本代表というだけだったが、今では「侍ジャパン」というチームの呼称がすっかりファンに浸透している。これは、マーケティング戦略の功績が大きかったといえる。「これだけのファンが代表の試合を見に来ているんだ」。正直、うらやましい気持ちにもなった。
この盛り上がりが4年後にも、そして、その先にも続いてほしい。そんな願いから、大会運営を振り返ると、考えさせられることもあった。
たとえば、激戦となった1次リーグのオランダ戦。試合が延長戦に突入したこともあって、終了時刻は深夜になっていた。あの時間まで球場内に残ることができたり、自宅でもテレビを見れた野球少年がどれくらいいただろうか。
米大リーグでは敬遠で4球投げる必要がなくなることになったが、試合時間短縮の議論は、WBCでも避けられない。敬遠に限らず、攻守でタイムの回数に制限を設けたりすることも検討の余地がある。このことは、海外に目を移せば、さらに思いが強くなる。
ニュージーランドのような野球の後進国で指導するようになり、現役時代とは違った野球の見方をするようになった。どうすれば、みんなが野球に親しんでくれるかということに主眼を置いている。これは、野球をする側から、見る側へ立ち位置を変えることともイコールだった。
海外では、サッカーやバスケットボール、ラグビーなどの球技と同じ土俵で野球の魅力を発進していかなければならない。こう考えたとき、まずは試合時間をどう短くするかが議論になる。
試合はスピーディーに、そして飽きられないようにが重要だ。実際、多くの球技で試合は時間で区切られている。9回2死からでも逆転のドラマが生まれることは野球の魅力の一つだが、果たして国際大会でもそこを追求する必要があるのか。今大会でも大差ではコールド勝ちが規定されている。観戦する側の予定が立つことを優先するなら、「2時間」が一つの目安になるだろう。そうならば、9イニングにこだわらないことも選択肢かもしれない。
もちろん、メジャーや日本のプロ野球に制限を加える必要はない。長い歴史の中で培われてきたものをファンも理解しているからだ。しかし、国際大会に関しては、同じ物差しでは図らず、さまざまなレベルの国が参加するという事情を考慮して考えてもいいのではないか。WBCの盛り上がりに喜びを感じつつ、そんな思いも頭をよぎった。
(構成協力:産経新聞社 田中充)
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著者プロフィール
- 清水直行(しみず なおゆき)
- 1975年11月24日生まれ 京都府出身。日大、東芝府中を経て、99年にドラフト2位でロッテに入団。2002年から5年連続で規定投球回、2桁勝利を継続し、エースとして活躍。05年は31年ぶりの日本一にも貢献した。04年のアテネ五輪、06年の第1回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に日本代表として出場。10年から横浜(現:横浜DeNA)。プロ12年間で通算105勝、防御率4.16。現役引退後は、ニュージーランド野球連盟ゼネラルマネジャー補佐、同国の代表統括コーチを務める。
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