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"世界の野球"セルビア野球の挑戦と葛藤 バルカン・ベースボール事情あれこれ「セルビア高校野球代表、日本へ(第1回遠征編)」

2018年7月24日

文・写真=辰巳 知行

 2012年9月、高校野球セルビア代表は、関西国際空港に到着しました(これまでの経緯については第6回を参照)。ほぼ全員が飛行機もアジアも初めてですが、お揃いのTシャツに身を包み、到着ゲートから元気に笑顔で現れました。数年前はちびっ子だった彼らも、すっかり青年に。監督やコーチとも再会を喜びながら、宿泊先の大阪市内へと向かいました。翌日から早速、関西の高校との合同練習や親善試合が始まります。日本での「武者修行の旅」が、セルビア野球にどのような影響を及ぼすのか、または及ぼさないのか、ワクワクした気持ちで一杯でした。

 第1日目の朝、コーチが出発前に選手たちを集めてミーティングをしていました。気合でも入れているのかと思いきや、コーチ曰く、セルビアと日本では文化が違うこと、セルビアの代表として恥ずかしくない振る舞いをすること等々、主に「マナー」の話をしたと言うのです。親日国で、日本に(幻想にも似た)好印象を抱くセルビアらしい朝礼に感心してしまいましたが、今思うと、セルビア風のあいさつ(頬に3回キス)を、日本でも見てみたかった気もいたします。

 記念すべき最初の訪問は、関西学院高校。甲子園にも出場経験のある兵庫の強豪校です。部員数はざっと見たところ70~80名。「このチームだけで、セルビアの野球人口の4分の1だ」とコーチも苦笑い。早速練習に参加させていただき、ランニング、ストレッチ、キャッチボール等のアップから、シートノック、フリーバッティングと、同校の選手たちに交じってグラウンドを駆け回りました。日本の高校野球に特徴的な、スピード感溢れるシートノックを初めて体感した彼らは、目を白黒させながら、必死についていっていました。監督とコーチも、眼前に飛び交うボールと選手たちにあんぐり。帰国後、彼らのシートノックはスピードが2倍ほどアップしたことを、この場でお伝えしておきます。

 2日目は大阪ドームへ。彼らにとっては生まれて初めてのプロ野球観戦。しかもドーム球場です。オリックス・バファローズ様のご厚意により、試合前の練習を間近で見学させていただきました。ほんの数メートル先で打撃練習をするT岡田やイ・デホ。ピンポン玉のように飛んで行くボールの行き先を目で追いながら、唖然としていました。バルカンや欧州ではなかなか見ることのできない、世界最高峰レベルの打撃です。「信じられない」を連発する彼らでしたが、一番舞い上がっていたのは、日本人の私だったかも知れません。そのような中、木佐貫投手が外国人の一行に気付き、気さくに声をかけてくれました。

 大引選手も輪に加わり、記念写真をパチリ。試合はオリックス対楽天。エースの西が好投し、握手をしてくれた大引がホームランを打ちました。テレビではない、生のプロ野球を前に、多くのことを感じたことでしょう。またまたオリックス様のご厚意により、電光掲示板に彼らが登場し、球場は心地よい拍手に包まれました。

 日が変わり、淀商業高校へ。男子が少ない高校ということもあり、部員集めに苦労されているようでしたが、よく鍛えられたチームという印象でした。平日の放課後にお邪魔したということもあり、限られた時間の中での親善試合。この日は流れがセルビアに傾き、試合は接戦となりました。日本の高校生とも互角に渡り合えたという経験は、大きな自信になったことでしょう。

 あくる日の対戦相手は、筆者の母校である北野高校。公設の舞洲ベースボールスタジアムで試合が行われました。大きな客席のあるスタジアムでプレーをするのは初めての経験です。いつもより彼らが上手く見えたのは、筆者の気のせいでしょうか。グラウンド上で交じり合う、馴染みのある二つのユニフォーム。個人的にも、感慨深い親善試合となりました。

 高校生とは言え、連日野球ばかりではさすがに体がもちませんので、コンディション調整も兼ね、日本の日常に触れられる機会を設けました。地域の小学校を訪れたり、運動会に参加したり、京都を訪れたり。

 セルビアの高校生たちにとっては、どれも印象深い体験になったようですが、日本の方々にとっても、遠い地の野球青年たちと交流できる貴重な機会となったようでした。

 続いて訪れたのは早稲田摂陵高校。選手たちは皆とてもフレンドリーで、セルビアの選手たちをリラックスさせようと色々な工夫を凝らしてくれました。ストレッチやキャッチボールを混ざりあって行ったり、円陣では英語で冗談を飛ばしたり。いつもは少々緊張気味のセルビア代表も、この日は本来の明るさでゲームに臨んでいました。試合が始まると容赦のないプレーが続きましたが、セルビア代表も意地を見せ、点差はさて置き、白熱した試合となりました。試合後に交換して持ち帰った「WASEDA」の帽子は、今でもセルビアのグラウンドで見かけることができます。

 2度目のプロ野球観戦は甲子園へ。気さくな阪神ファンに囲まれながら、ナイターを体感しました。グラウンドのプレーは気になるものの、しばしばやって来るビール売りの女の子はもっと気になるらしく、覚えたての日本語フレーズを駆使しながら、国際交流を図っていました。チェンジの度に、前日に仕込んだ「ありがとう日本」というボードをかざし、感謝の気持ちを伝えながら、テレビにもきっちり登場するというしたたかさもさすがでした。そのような中、セルビア選手のひとりが、「プロ野球選手になるにはどうすればいい?」と、素朴な質問を私にぶつけて来ました。セルビアにひとつしかない球場でプレーする自分と、甲子園でプレーするプロ野球選手が、彼の中でつながって見えた瞬間だったのかも知れません。

 いよいよ最終日。以前勤めていたミキハウスのシニアチームとの親善試合です。社長始め、10年以上も前に一緒にプレーをした先輩や後輩たちが駆けつけてくれました。お腹は少々ポッコリしましたが、全国大会へ出場した実力は変わらず。「野球は技術のスポーツである」ということを、セルビア球児たちは身に染みて理解したことでしょう。

 ミキハウス・スタジアムを後にし、日本での武者修行のラストゲームへ。相手は何と、京都両洋高校「女子」硬式野球部です。新聞記事を見た部長さんがご連絡をくださり、親善試合が実現することに。最初は「紳士的」にプレーをしていたセルビア代表も、序盤が終わるころには本気モードに。中学校でソフトボールを本格的にやっていたと思われる多数の女子選手の技術によって、体力の差は完全に埋められてしまいました。またしても、「技術」の大切さを痛感したことでしょう。日本での最後の試合ということもあり、セルビア代表のユニフォームは、女子選手の皆さんに渡って行きました。

 実質10日間の滞在で計7試合。文字通りの武者修行となりました。「日本での1試合は、セルビアでの1年分の練習に相当する」と、ある選手は冗談めかして言っていましたが、まんざら誇張でもないのかも知れません。彼らが日本で学び、体感したことが、セルビアでの野球の発展と普及にどのような影響を及ぼして行くのか、楽しみがまたひとつ増えました。今後とも、彼らの日本遠征を数年に一度、新しいメンバーを加えながら実施してゆけたら、野球先進国日本のスタンダードは少しずつ、セルビアやバルカン諸国へ伝わってゆくのかも知れません。次回は、2016年に実施された第2回日本遠征の様子をお伝えいたします。

著者プロフィール
辰巳 知行(たつみ ともゆき)
1968年10月18日生まれ
バルカン地域に勤務していた2000年代、誕生間もないセルビアの野球と出会う。以来、コーチ兼選手として、同国における野球の発展と普及に取り組む。セルビア高校代表チームの日本遠征を企画・実施する等現在も協力を続けており、いつの日か、セルビア代表が侍ジャパンに挑戦できる日が来ることを夢見ている。大阪府立北野高校野球部99期主将。

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