文・写真=色川冬馬
サッカーに次いで、世界の球技競技人口第2位と言われるクリケット。野球と同様、捕る、投げる、打つという動作があり、野球に似たスポーツである。パキスタンでは、最も人気のスポーツといっても過言ではなく、クリケット代表選手が球場間を移動するだけで、ファンが押し寄せ一気に人だかりができる。私が代表合宿を視察した時は、まるで日本でいうプロ野球選手のスプリングトレーニングの様に感じた。メディアも決められた場所までしか立ち入る事ができず、厳戒態勢の中で行われていた。
そのクリケットで育ったのが、現在のパキスタン野球代表チームである。当然、全員クリケット経験者であり、どことなく野球をしていてもぎこちなく見える。しかしながら、肩の強さ、スイングの速さは日本野球と比較しても引けを取らない。代表には、150㎞を計測する投手や、打撃練習でホームランを飛ばす選手もいる。
クリケット代表合宿視察中、クリケットコーチと議論を進める中で、パキスタン野球選手のぎこちなく見える動きの原因が明らかになった。ゴロ捕球までのステップ、捕球後のステップに野球との明らかな違いがあったのだ。クリケットでは、代表レベルでさえ、未だにどれが一番いいのか議論をしており、私が野球の捕球のステップを披露すると議論がさらに活発化した。多くの選手・指導者は、クリケットにも野球のステップは効果的という見解を示した。翌日、クリケット代表コーチが野球の視察にきた程であった。
いずれにせよ、現場に来たからこそ、見えてきた事がいくつかあった。それは、型に拘る日本野球にあって、パキスタンにないもの。また、その逆である。
クリケットでは、基本的な捕球姿勢が確立されていないため、とった瞬間に投げる動作に入る事が多い。いわゆる野球選手でいう「難しい体制」での送球をパキスタン選手は難なくこなすのだ。これは「経験」がものを言う動作である。だから、どこか一昔前の中南米の野球に似ていると感じるのかもしれない。私は「パキスタン人が既に持っているものは武器として伸ばしたい」と考えている。難しい姿勢での送球、いわゆる球際の処理を正確に行えるのは、武器である。そして、ぎこちないステップに関しては、私が独自に開発した野球プログラムで「なぜ」を追求する。考える事、そして一つ一つの動作をスピード感のない動きから確認し、順を追って、そのスピード感を上げていく。それで、大抵の選手はルーティンステップを学ぶ事ができる。代表合宿から1週間、なぜ私があえて様々な確認作業に時間をかけているか。それを説明して、理解してもらうことの難しさを感じながらも、着実に前へ進んでいる。
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著者プロフィール
- 色川冬馬(いろかわ とうま)
- 2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。
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