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"世界の野球"日本人指導者の挑戦 香港野球代表「深松インターナショナルカップ2017へ向けて」

2017年5月8日

文・写真=色川冬馬

 香港へ来て数週間、私も部屋を借り、少しずつ香港生活にも慣れ始めていた。選手も同様、私が来た事で変わった新たな環境に慣れ、練習もスムーズに行えるようになってきていた。

 代表チームを強化していく上で、まずはチームとしての守備や走塁における共通認識を明確にする必要がある。ここで、よそ様のチームを指導する際に私が気を付けているのは、チーム内で既に取り組んでいる連携プレイや走塁に対する認識を大切にし、そこに私の考えを慎重に擦り合わせていく。ここを間違うと、現地の指導者との関係がスムーズにいかなくなり、選手に戸惑いが生まれてしまう。また新しいことへチームとしてチャレンジする場合も「なぜ」これをするのかを選手自身が説明できるようになるまで慎重に指導していく。

 香港野球にある既存の認識や表現を用いながら、「なぜ」そうするのかを選手と共に追求していくことで、選手も理解が出来れば自信に繋がる。自信があれば、チーム内のコミュニケーションも自ずと増えていくものだ。こうして最初の月は、自分の野球を浸透させる作業を慎重に行いながら、選手やコーチ、そして協会との関係性を正確に認識するための観察を繰り返していった。

 3月の2週目に入った頃だった。選手の個人練習へも付き合う余裕もでき、個人の課題とチームとしての練習を明確に分けられるようになり、順調に思えた。しかし、仙台遠征まで2週間をきったある日、これまで凄い勢いで進んでいた選手たちが自らブレーキを踏み始めたのだ。それに気付いた私は、不思議に思い選手に話しを聞いた。選手は「状態が良いので、現状を維持したい」と言うのだ。
 私はパキスタンで指導していた時を思い出していた。香港代表とパキスタン代表では選手の違和感に対する表現方法が違ったが、選手たちは初めての経験と先の見えない不安と戦っているように私は感じた。最初の1ヶ月は新たなチャレンジに勢い良くスタートする一方、慣れ始めた頃に日々の蓄積した疲労が選手の思考を苦しめる。初めての長期に渡る集中的な練習、新たな技術や知識の習得の裏で、選手たちは先の見えない不安と常に戦っていた。

 そう思った私は、選手たちを集めてミーティングを行った。これから5月までに私達が向かう方向性を再確認し、仙台で戦う相手のレベルを説明した。その上で、改めて香港野球の立ち位置を確認し、私達が出来ることを前向きに提示した。個人のスキルアップについても「現状維持は衰退と同じである」とした上で、積極的な失敗とチャンレンジを増やしていこうと仙台遠征へ向けて気持ちを新たにした。

著者プロフィール
色川冬馬(いろかわ とうま)
2015年2月にイスラマバード(パキスタン)で行われた西アジア野球選手権にイラン野球代表監督として、チームを2位へと導く。同大会後、パキスタン代表監督に就任。2015年9月に台湾で行われた「第27回 BFA アジア選手権」では、監督としてパキスタン代表を率いた。

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